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ビジネスデューデリジェンスの論点 Part1

 

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 今回は、ビジネスデューデリジェンスについて考察してきたい。経営コンサルタントとしてプロジェクトを多数経験してきたが、その中でもとりわけビジネスデューデリジェンス案件は、その後のクライアントの経営活動に多大な影響を与えるために、非常にセンシティブでなおかつやりがいも大きく感じる。今後複数回に分けてスコープをごとに論点を掘り進めていく。

 

  1.  デューデリジェンスの概形

 デューデリジェンスは、投資可否の経営判断をする上では非常に重要なセクションを担っており、投資対象となる企業の価値やリスクを調査することを指す。ゆえにデューデリジェンスの結果次第では、投資を見送らざるを得なかったり、企業価値(バリュエーション)の算定が変わることで買収価格が変わったりと、買い手・売り手双方に少なくない影響を与える。

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デューデリジェンスの類型

 ビジネスデューデリジェンスはその中の一スコープであり、事業そのものの持続性、組織、財務活動の精査が主な論点となりやすい。この他には財務内容や会計情報、税務調査関連の精査を担うファイナンス(会計・税務)デューデリジェンス、定款や登記事項、クレーム・訴訟事案の内容、労務契約など法的なものをチェックするリーガル(法務)デューデリジェンスがあり、これらが複合的に合わさることで最終的な投資判断の材料となる。つまり、いざM&Aを進めようと思ったら、(規模の大小はあるものの)この3チームが同時に稼働し、対象会社への企業調査に乗り出すわけで、非常にハードな案件であることはうかがえると思う。実際にはこれらとは別にファイナンシャル・アドバイザー(FA)と呼ばれる外部セクション(主に証券会社)が売り手・買い手双方につくことも多く、双方の各セクションの取り纏め、窓口業務、ロジを手掛けることがある。

 買い手の各セクションを担う人材であるが、大手企業でも(投資委員会が設置されている場合でも)すべて自社人材で賄うことは難しい。リーガルについては顧問弁護士法人、ファイナンスについては会計系コンサルまたは税理士法人、そしてビジネスについては経営・戦略コンサルファームメンバーがアサインされることがある。実際に私がアサインした数百億円規模の買収案件では、これらのセクションのメンバーで20人強がアサインしていた。実際経営コンサルタントが手掛ける案件で、これほどまでに多くの外部セクションの人間と関わるものはM&A案件をおいて他はなく、私も世の中の所謂「アタマのいい職種」の人間にはここですべて出会ったような気がする。

 国内におけるM&A環境については別の回で触れるとして、昨今、特に事業承継のニーズから企業投資意欲は非常に活発であり、それゆえ案件紹介の機会も多い。こうした外部人材がアサインされるのは、クライアントが対象会社に買収・出資意向を持ちかけ、実際にディール(具体的な交渉)が開始されてからの場合が多い。

 

  1. ビジネスデューデリジェンスの目的

 各デューデリジェンスの論点は置いとくとして、まずはざっくりビジネスデューデリジェンスの論点について列挙していきたい。

 具体的な論点を提示する前に、まずはビジネスデューデリジェンスの目的を理解せねばなるまい。前述した通り、経営判断に直結する各デューデリジェンスの一つであって、事業そのものや財務活動について掘り下げを期待されているセクションである。企業買収や出資を考える際に、まずもって何を見なくちゃいけないかと聞かれたら、当然対象会社の事業内容であることは想像に難くない。これに加えてM&Aの最大の目的であるシナジーの創出ポイントの模索と、事業上のリスクの精査、対象会社作成プロジェクションのフィージビリティの精査である。M&Aによって創出されるシナジーは、主に双方のサービスのクロスセル&アップセル、営業体制の強化、採用・人材の強化、新規サービスの開発である。買収や出資を打診した時点で、大凡のシナジーは洗い出されているものの、その実態は対象会社からの情報開示を待ってから判断しなければならない。この点についてはプロジェクションの精査も同じであり、直近期の公開されている財務情報を基に初期的な買収価格・出資金額を提示してはいるが、進行期の足元の業績やら、事業計画についてはその実現性については一つひとつの資料を精査しなければならない。当然、そのフィージビリティが低ければバリュエーションは下がるし、実態が明らかになったあと、投資断念を検討せざるを得ない状況も往々にして発生する。

 

 ビジネスデューデリジェンスの様々な言い方や切り口があるのだが、主な論点としては2つ。➀事業環境分析と➁業績構造分析である。

 事業環境分析はその名の通り、市場環境や競合などの外部環境とサービスそのものや組織、顧客・営業基盤など事業全般に係る要素の抽出である。また、業績構造分析はより財務的な内容になり、売上・利益の推移や投資計画、運転資金に関してのスコープが存在する。下記に細かくその要素を列挙するが、当然対象会社によってもう少し細かく設定する必要がある。

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ビジネスデューデリジェンスの主な論点

  こうして設定したスコープは、そのままビジネスデューデリジェンスの結果報告時のレポート資料の目次となり、これを基に開示された資料の精査やQ&Aを作っていくことになる。これらのスコープについては、あらかじめクライアントと握る必要があるが、アサイン時にすでにスコープが決定していることも多い。とはいえ、具体的な調査を進めなければ見えない部分もあるので、その都度スコープを追加していくことをお勧めする。当然ながら優先順位が高いのは、財務諸表を見た上で計上金額の大きい部分である。ここを実際にイチから設定しようと思うと、経験のないうちは非常に難しい。翻ってコンサルタントとしての役割を考えるのであれば、いかに相手の気持ちに寄り添えるか。この場合、「投資判断に必要な材料を網羅的に調査すること」である。つまり、自分にポンと数百億渡されて、「これを元手に企業を買え」と言われた際に、どうやって投資先を決めるのか―想像力を逞しくさせて設定していく必要がありそうだ。

 

 企業買収において、買い手側が売り手側へ提示する資料としては、意向表明書と株式譲渡契約書の2点である。これらの最終的なアウトプットを作成するための材料として、デューデリジェンスの結果を各セクションが報告書にしてまとめる。ゆえに、各セクションが作成するアウトプットは、必然的にクライアントたる買い手企業の内部検討用資料となる。

 ビジネスデューデリジェンスのアウトプットとしては、上記報告書と(FAが作成する場合もあるが)買収後の財務モデルである。この財務モデルは、開示されている財務情報、事業計画を基に最初期にドラフトするもので、ビジネスデューデリジェンスの結果、数値を調整し、おおよそ現実的な財務モデルへと落とし込んでいくものである。全体のデューデリジェンス終了時、「売上の積み上げができない」と判断される項目は下げる、コストがよりかかりそうな場合はストレスをかける、シナジーを総合的に勘案した結果、パラメータ化して利益に反映させるなど、実際の利益水準に近い形で買収後の試算を行う。これも投資可否判断に資する重要な情報である。この買収案件が、企業連結を企図したものであれば、クライアントの財務諸表と連結させる作業が必要であるし、買収金額を自己資金ではなく連結後のBSを対象としたLBOローンで調達するストラクチャーであれば、これを銀行などに提示する必要も出てくる。まさに、ビジネス感覚と数的センスが問われる領域である。

 

 ここまでビジネスデューデリジェンスの論点とそのアウトプットについて述べてきたが、次回は各論点に基づいて、より実務的にアプローチ方法を紐解いていこうと思う。