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ビジネスデューデリジェンスの論点 Part2

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 今回は、前回に引き続いてビジネスデューデリジェンスについて考察してきたい。また、今回想定するのは非上場会社における株式譲渡事案を検証する。公開株であれば、大株主と市場外での交渉を踏まえた上でのTOB(株式公開買い付け)により、買収プロセスを経ていく流れが一般的(目安となるのはやはり現在取引されている株価であるが、実際は株価そのままで株主が譲渡に応じることは、きわめて稀である。ゆえに、市場外での交渉時は、株価に30%程度のプレミアムを積んだ上で、株主に何等かの恩恵がある提案をすることが多いと聞く。それが、待遇なのか再投資の打診なのかは案件によるだろうが)。

 非上場会社の数は、上場会社のそれと比しても数が多く、それゆえに株式譲受の機会も多い。今回は、ビジネスデューデリジェンスの具体的な検証方法について述べる前に、その目的をしっかり理解していただいくために、一般的な買収プロセスについて検証していきたいと思う。

 

■ 買収プロセス(買収候補のリストアップ~アプローチ)

 ある企業が、事業拡大や企業価値を向上させる目的で、企業買収を検討したとする。その際は、以下のステップで進めるのが一般的である。 

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一般的な買収プロセス

 

➀ 買収目的の確認・アングル設定

 どのプロジェクトでも共通するが、まずは「なぜ企業買収を進めるのか」の観点での目的設定が肝要である。特に、企業買収に乗り出すということは、自社拡大のために自社と異なる企業文化を受け入れるということであり、経営基盤に与える影響はよくも悪くも非常にクリティカルなものになる。また、その分リスクも大きい。ヒト・モノ・カネ・情報というすべての経営資源に動きが出るため、全方位的な視野を持つ必要があるのだ。

 さらに、自社の貴重なキャッシュ(あるいは財務的リスクを背負うLBO(レバレッジ・バイアウト。借入金を用いた企業/事業買収))を使うため、ボードメンバー、株主に対して説明責任を果たす必要も出てくる。純投資を除いて、財務会計を連結させるプリンシパル投資は、本体企業の経営に直接的な影響を与えるためである。その会社を買収することによって得られるシナジー、想定されるリスク、達成されるビジョン、上乗せされる利益・・・種々様々な情報を集約し、その企業を買収するに値するかどうかを提示しなくてはならない。

 上記の観点から、どんな企業をどういう目的で取得していくのかを明確に定義する作業が出てくるのである。その背景を踏まえ設定されるのが、取得企業のアングルである。規模、顧客基盤、所在地、事業内容(本体と同じ事業を展開しているor上流と下流で本体の事業と一定の親和性がみられる事業を展開しているor本体の事業をサポートする事業を展開しているor本体が新たに乗り出す領域で先行しているなど)、営業活動方針、リソース(従業員の人数、年齢、スキル、組織機能など)、企業文化などを事細かに設定して、買収候補となる企業を選定していく指標を設定していくのである。

 

➁ 買収候補企業リストの作成(ロングリスト)

 アングルが決まったら、さっそく候補企業のリストアップをはじめてみよう。実際にどのようにリストアップしていくのかは、その企業の買収目的によって大きく異なるが、まずは買収対象となりそうな企業を広く集めていく点では共通している。事業軸で見た場合、お目当ての事業を展開している企業を、少し視野を広げて探すことが多い。

 このような場合に活用したいのが、「帝国データバンク(TDB)」や「東京商工リサーチ」が提供する企業情報データである。これらを利用することで、大まかな事業内容でスクリーニングをかけた上で、一通りの企業情報を取得することができる(情報を取得したい企業数や情報の粒度によって金額が異なるため、いざとなったら是非営業担当者に相談してみてほしい。また、これらの企業情報は、上場企業を除いてアンケ―ト回答によるものであり、必ずしも正確な情報が掲載されているわけではないことを補足しておく)。以下はTDB企業情報のサンプルデータである。基本情報の他に重要な項目となるのは、「株主」、「販売先(顧客)」、「業績」であろうか。これらの情報をExcelなどで一覧化したデータを「ロングリスト」と呼ぶ。単純にこの時点ではスクリーニングをかけていない、「長い」リストであるということである。

 

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出所: 帝国データバンク(サンプル)

➂ アングルによるスクリーニング(ショートリスト)

 ここからはロングリストを加工して、スクリーニングを進めていく。業績軸で見れば「売上XX百万以上、利益XX以上」という絞り込みをかけ、顧客軸であれば「XX業界の大手を顧客に持つ」などという観点で、販売先から選定していく。もしかしたら、事業内容を事細かに見ていく必要があるかもしれない。ロングリストの時点では、およそ1社1社企業HPを訪問するのは骨の折れる作業である。かといって、ロングリストのみの情報では、精査に足る情報は取得できているとは言えない。こと非上場会社は、所謂「法定開示」の義務がないため、公開されている情報は限定的である。そのため、アングルに基づいたスクリーニングにより、より買収可能性の高い企業をピックアップして「ショートリスト」を作成する必要がある。これにより、深堀調査をする対象を絞って、効率的に検討できるソースを作成することが可能になるのだ。このショートリストは、ロングリストの情報のみならず、事業内容などを深堀し、PPTに1社1枚にまとめて作成し、投資委員会での検討材料になることが多い。これを基に、アプローチ先を選定していくのだ。

 

➃ 投資チーム・投資委員会での検討

 ショートリストが出そろったタイミングでチームで対象会社を選定していく。投資チームには、ある程度M&Aに知見のあるメンバーやトップマネジメント層がアサインしていること多い。対象会社の事業内容や、顧客情報、創出されるシナジー、業績、買収後のビジョンを深くディスカッションして、打診するか否か検討することとなる。このほかにもM&A仲介や証券会社、銀行からの紹介や、顧客企業やトップマネジメントのコミュニティの中で、譲渡案件が持ち込まれる可能性もあるため、併せて検討することとなる(一定規模の会社がM&Aに動いているとなると、どこからかその情報が拡散し、紹介の数が増えることも多い)。

 

⑤ 初期段階のアプローチ

 対象会社との一定の親和性が見られた場合、その企業へのアプローチ方法を考える。考えられるアプローチとしては、証券会社や取引銀行を通してコンタクトをとってもらう方法や、トップマネジメント同士のアプローチにより、対象会社の社長やオーナーへ自社紹介と先方への提案の機会を得る。こちらがある程度ネームバリューのある場合は、トップマネジメントが直接アプローチすることで話が進むことがあるかもしれないが、センシティブな内容であるがゆえに、大抵の企業は「見知らぬ会社から資本絡みの提案」ということで、身構えてしまうことも想定される。そのため、証券会社や取引銀行のリードでまずは事業提携アプローチすることが一般的である。事業提携を切り口として、徐々に資本提携⇒買収打診という流れで交渉を進めていくことになる。

 初期的な面談の際は、自社紹介資料と、シナジーを含めた事業(資本)提携の提案を分かりやすくキャッチ―にまとめた提案書を提示、先方への理解と“伴走感“を醸成し、プレゼンすることで、交渉を進めていくのが肝要である。

 

 いずれにせよ、この交渉が前進するか否かは、先方事由やタイミングにより複雑な事情が絡み合うため、不透明である。コンサルが関わるプロジェクトの中でも、「水物」感が強い印象だ。そもそもIPOを目指していて先方は売る気がなかったり、オーナーは高齢で引退するが跡継ぎがいたり、すでに「競合」として他の企業・ファンドが唾をつけていたり、上記事由があっても価格次第で動いたりと。関わる人間もよりエモーショナルな部分が際立つし、「ここだけの話」も多いため、交渉が思い通りにいかないことがままある。ゆえに、こうした交渉は対象企業複数社並行して進めていくことが考えられる。

 

 今回は、買収プロセスにおける初期的なアプローチまで具体的に提示させていただいた。次回は、買収交渉からデューデリジェンスについて、詳述していくこととする。