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BDD各論点の検証方法と進め方~ビジネスデューデリジェンスの論点 Part4~

 

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 今回は、ようやくビジネスデューデリジェンス(BDD)の本論に入っていく。ここまで一般的なM&Aプロセスについて述べてきたが、その背景から、BDDの目的や重要性については、ご理解いただけたかと思う。コンサルタントや経営企画を志す諸兄には、是非この機会にBDDのアプローチをご理解いただき、M&Aに限らず(例えば競合調査や経営戦略策定など)、他案件でも応用いただければ幸いである。

【買収プロセス(BDDの開始~中間・最終報告)】

⑤ 意向表明書の提示・デューデリジェンス

 前回は、意向表明書の内容について触れたが、今回は実際にBDDの進め方と各論点の検証方法について、詳述していく。

 BDD(会計・税務/法務DDも同様だが)は、先方開示の資料を分析することで、対象会社の事業・財務内容について検証していく方法をとる。はじめにBDDのスコープを設定する必要があるのは、先刻ご承知の通りだが、この論点を検証するのに必要な情報があるか、まずは隈なく開示資料の読み込みをはじめていただきたい。

QAシート

 先方の準備状況によって、開示される情報はまばらであり、限られた時間の中で追加の資料請求を並行して依頼していく必要がある。この際に用いられるのが、「QAシート」というもので、セルサイドへ追加資料の依頼や、資料分析中に疑問が発生した場合の質問ができるようにしたツールである。特別なツールを使っているわけではなく、その多くはExcelで作成し、双方でやりとりをすることが多い。

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QAシートのサンプル

 QAシートは、BDDの他、会計・税務/法務DDも同ファイルで一元管理し、セルサイドの窓口担当者に送付する。一度にすべての回答が返ってくるわけではないため、優先度をラベリングすることで、重要な項目から着手してもらうようにしたい(案件によっては、質問上限数や優先度のラベリングの上限数を設定される場合がある)。

マネジメント/実務者インタビュー

 もうひとつ重要な取り組みとして、対象会社へのインタビューの実施がある。特に財務資料中の不可解な増減の要因や、先方が提示してきた直近期以降のプロジェクションの精査などは、先方の社長や役員陣を同席させて行う「マネジメントインタビュー」でヒアリングすることを想定しておきたい。

 各資料の分析を進めていく中で、QAシートのみでは網羅できない大局的な情勢や、社内事情については、別途質問リストを設定しておき、マネジメントインタビュー時にぶつける。こうすることで、対象会社提供資料の精査もできる上、マネジメント層の経営手腕も同時に洞察することができるのである(マネジメントが数値を把握してなかったり、経営に関してあまりセンスを感じられなかったりした場合は、本件成立後の経営体制について、再考することも考えられる)。マネジメントインタビューは、各DDセクションと共同して行う。先方のマネジメント陣にご列席いただくため、DDプロセス開始前に、ざっくりとでもスケジュール感をセルサイドと合意しておきたい。

 また、マネジメントとは別に「実務者インタビュー」を行うことも検討する。こちらはより現場レベルの観点に立ったインタビューであり、各セクションの責任者に個別で実施するケースが多い。営業はどのように行っているのか、実際のサービス提供を手掛ける者は顧客をどのようにつなぎとめているか、オペレーション上での不都合はないか、人事担当者の計画する採用スケジュールの実現性はどうか、人材のキャパシティはどのくらいかなど、マネジメントの目の届かないところを精査するのである。同時に経営統合の際、コントロールすべきキーパーソン(属人性の高い業務ゆえに顧客が個人に紐づいているケース、実質的に個人の人脈・ネームバリューによる案件獲得に依存しているケース、従業員が特定の人物を慕っており大量辞職が起こりうるケースなどが想定される)にあたりをつけるという側面も持っている。

 

 このように実際進めてみると、単純な分析だけでなく、複数回にわたる対象会社とのセッションを設ける必要があるため、それぞれスケジュールの確認しながら、効率的に検証を進めていかなければならない。バイサイドにもFAを据える場合は、諸々の交通整理やロジまわりのサポートをしてくれるので、規模によっては検討してみるのも手である。

ビジネスデューデリジェンスの論点と検証方法

 さて、ここからはBDDの詳述に入る。以下、以前提示したBDDのスコープ例であるが、再度ご確認いただきたい。

www.consultant-biz.com

 

 内容を見ると非常に高度なことをやっていそうだが、その実特段難しいことをしているわけではない。各論点の検証方法は、Google検索をかければそれなりの情報は出てくる。重要なのは、案件ごとに異なる本件実行に影響を与えるリスクの精査と財務数値の妥当性、そしてシナジーの精査である。ここからは主要な論点について、その分析手法を検証していく。

1. 事業環境分析

ア 外部環境分析

 対象会社がどの市場でどういった位置取りをしているのか、分析を進めていく。そもそもの市場規模がどのくらいか、といった分析から入ると分かりよいかもしれない。市場規模については、各調査会社・コンサルティング企業がレポートとして出しているため、比較的スムーズにアウトプットできるだろう。ただし、対象会社が展開する事業の性質やサービスメニューにより、実際はもう少し粒度の細かいものを作成し、実質的な市場規模を測定することが望ましい。その上で縮小傾向にあるのであれば、それは事業上のリスクとして認知する必要がある。

 

 競合の存在については、ヒアリングで実際にバッティングする企業について提示してもらい、リストアップ。その他第三者目線で競合を洗い出し、それぞれのサービスの性質を比較した上で、対象会社のSWOT分析を行う。この際、本件とは別に対象会社顧客からのインタビューを開催し、顧客先でのシェア分析やFBからの外部評価としてアウトプットとすることもある。先方ですでにこの分析を行っている場合は、その精査を行う。

 

イ 事業基盤・事業構造分析

 こちらは組織や顧客・営業基盤の実態をつかんでゆく。従業員については、前述のインタビューの他、年次の採用数と退職者数(離職率)推移から、人員計画にリスクはないか、人員数の変化がどの程度事業に対してインパクトを与えるかを精査することになる。特に、多くの場合従業員は引き継いで雇用することになると思われるが、異なる企業文化を受け入れる手前、その組織風土やコミュニケーション上のリスクについては、注視して洗い出す必要がありそうだ。事業計画と照らして、要員状況の過不足がないか、ある場合はどのような対策(新規雇用、外部プロ人材の招致、従業員評価制度の見直しなど)を講じていかなければならないか、最終的に具体性をもって説明できるようにしておきたい。

 

 そして最も重要な論点のひとつは、顧客状況の把握である。取引先別の売上高実績から、売上高に占める割合を把握する。特に、対象会社がある別企業を源流としている場合、内部取引の名残が現在まで残っている可能性もあり、買収成立後に継続的な契約が結べなくなるリスクもある(この点については、主に法務DDですべての取引契約内容を確認することで精査する)。また、ある程度の顧客分散が見られない場合(数社との取引で売上の大半が構成されている場合など)、これもリスクと考えなければならない。リプレースや経済状況により取引が継続できなくなる可能性も否定できず、売上の大半を失ってしまうことも考えられるからだ。その際は、新規顧客のアプローチについて、例えばブルーオーシャンとなるセクターを提示したり、既存の取引金額の小さい取引企業についてアップセルを検討したりして、そのリスクを分散できるか対策を講じなければならない。

 

 営業については、そのパイプライン別の獲得状況から、強み/弱みのチャネルを洗い出していく。サービスによっては、直接提案が活きる場合や自社サイトからの流入がメインとなっている場合もある。いずれの場合もそのチャネルの問い合わせ数、応対数、受注率、失注率、維持率などのパラメータから、分析を進めていくことになる。同時に、まったく営業が機能していない場合も想定される。営業強化策についても、自社人材と併せて検討していかなければならない(この部分は、受注のキャパシティによって案件をセーブしている可能性も考えられるため、要員状況と併せて検証する必要がある)。

2. 業績構造分析

 ここでは、売上・利益の推移や、事業運営上必要な運転資金について検証していく。業績を紐解く上で、欠かせないのがサービス別・顧客別の売上・利益を分解した管理会計資料である。こちらは、提示されたプロジェクションの妥当性や、標準的な利益推移を検証する際に最も重要な論点である。

 サービスごとに一定期間の売上・利益推移(アウトプットの際はウォーターフォールで示すとよい)を追い、売上増減要因や顧客の継続性を測っていく必要がある。各年で増収増益の成長を描けている場合はまだよいが、増収減益、減収増益、減収減益となっている場合には何かしらのリスクが隠れている可能性がある(利益率改善の取組をした、大口顧客の契約が切れたなど)ため、サービスごとに細かく注視していく。その要因については、仮説をもっておきながら、QAシートやインタビューで精査を進めていくことが必須である。売上・利益の増減にすべて説明がつき、かつリスクへの対応策が講じられるかが重要なキーファクターとなる(最終的な財務情報を確定したのち、買収価格にも反映される)。

 これらの分析は、過去の予実分析と合わせ、今後のプロジェクションのフィージビリティを精査する際にも活用され、進行期以降の事業計画はどのくらい確定しているのか、またいつ確定するのかといった観点で検証を進めていきたい。

 

 その他、事業上必要な手元キャッシュは、月次のキャッシュフローから標準的な水準を計算し、会計DDと照らして検証を進める。この部分も買収価格で調整する可能性がある指標である。

 

 BDDの検証方法について述べてきたが、当然対象企業のセクターによって論点は大きく異なる。分析自体はそこまで難しいものではないが、事業上のリスクを多角的に洗い出していく必要があり、この点見落としがないようにしたい。最終的には、バイサイドが集まる報告会での資料としてレポートをまとめるのだが、数百ページにおよぶケースもざらである。セルサイドに見せるレポートではないのだが、投資判断に深く寄与する資料のため、知力・体力が試される、まさに戦略コンサルタントの花形案件であるといっていい。

 

 次回は、対象会社とのシナジーの精査と対象会社の財務モデル作成について、そのアプローチ方法を探っていくことにする。