MENU

シナジーの精査と財務モデルの作り方 ~ビジネスデューデリジェンスの論点 Part5~

f:id:consultant-biz:20200704161937j:plain

 本日は、買収を検討している対象会社とのシナジーポイントと、ビジネスデューデリジェンス(BDD)の結果を反映した連結財務モデルの作成方法の一例をご紹介したい。

 BDDにおいての検証論点やその目的は、前回までにご紹介した通りであるが、それらを反映した財務モデルでのシミュレーションにより、本件の買収可否判断を検討することになる。「一緒になるとX年後にX億の利益創出が見込める」という見立てを、視覚化していく作業である。その前に、シナジー創出をどのような視点で掘り下げていくのか、それらをP/Lに反映させるためにはどのようにロジックを組み立てるべきか、考察していきたい。

 

■対象会社とのシナジーポイント

 シナジーポイントを考慮するにあたっては、その取得目的や自社と対象会社の事業内容、パワーバランスなどが関わるので一概に定義することは難しい。そこで、主だったものを挙げていきたいと思う。

f:id:consultant-biz:20200704161941j:plain

P/Lに反映されるシナジーの創出ポイント(例)

➀ 既存サービスのクロスセル

 双方の顧客基盤の規模やセクターに共通性がみられ、提供するサービスに連続性がある場合は、このクロスセルが一番分かりやすいシナジーであろう。

 要は、自社のサービスを対象会社の顧客に、対象会社のサービスを自社の顧客にという形。対象会社の買収は、そのプロセスの前に大凡の検討をつけているはずなので、インタビューや対象会社の顧客別売上を見て、そのフィージビリティを探っていくことになる。

 これを定量的に表す際は、何らかの数式を定義する必要がある。どこまで突き詰めて計算するかによるものの、一番簡単なのは「単価(サービスの平均単価)×数量(クロスセル対象の企業数)」。自社の営業部の協力を得て、アプローチできそうな顧客に見当をつけ、数ヵ年でどれくらい獲得できそうか、年次の拡大計画を作っておくとよい。それぞれのシナジー創出分の売上・粗利・営業利益が、それぞれのP/Lに計上されることになる。

 必ずしも双方にクロスセルの恩恵があるとは限らないが、シナジーとしては、大きな部分であるといえる。

f:id:consultant-biz:20200704161946j:plain

クロスセルの試算

➁ 新規サービス開発

 こちらは、新しいサービス創出のシナジーである。そもそもの買収事由が、双方で不足しているセクションを獲得することで、新たなサービスの展開を企図しているものであれば、初期段階でもある程度あたりをつけているはずである。つまり、どういったサービス内容で、マネタイズポイントはどこでいくらなのか、想定ターゲットはどこか、数字に落とし込むステップを検討することになる。買収プロセスに入る前に、業務提携などで対象会社と関係値を築いている場合は、そのあたりの作り込みはたやすい。

 そういった関係性がない場合でも、買収を機にある種一気通貫型のサービスを提供できるスキームを検討する場合もある。例えば、BPRを得意とするコンサルティング会社と、B業務効率化に資するビジネスツールを提供するソフトウェア会社の場合、上流でBPRのスキームをつくるコンサルテーションを実施し、そのスキームをドライブするツールを提案するというパッケージが出来あがる。受託開発型にしろ基本仕様へのアドオン型にしろ、ソフトウェア会社は、意外と営業が弱かったり、適正価格での販売ができてなかったり、はたまた要件定義以前に、よりニーズにマッチさせるためのコンサルテーション機能が無かったりするケースも多いため、大凡メジャーな事例であるといえる。

 このシナジーの定量的な算出方法も、基本は➀と共通するが、まずはシナジーを図りやすい既存サービスでのクロスセルを目指したアクションプランが優先されるケースが多いため、そちらの分析に注力することが肝要である。

➂ 人材の強化

サービス提供のためのキャパシティに関するシナジーである。

近年の労働人口減少に伴い、スキルフルな人材の確保や必要なセクションを継続採用するのが難しいケースが散見される。対象会社にしてみれば、「限られた人数でオペレーションしなければならず、これ以上受託することができない」という頭打ちの状況が続いているため、その打開策を買い手に求めていることになる。

売り手が採用のノウハウや必須人材のプール、あるいは採用に効果的なブランド力を持っている場合、それは対象会社側に提案するメリットとなる可能性が高い。営業開拓余地があるにも関わらず、キャパシティの問題でそれらが達成できない場合、それらが解決したら金額にしてどのくらいインパクトがあるものか、試算することをお勧めする。

簡易的にやるのであれば、➀にあげたクロスセルによるP/Lインパクトに条件をつける形が一般的であろう。一人あたりの営業件数や売上高を基にして、「要員X名の場合、X件の営業が可能でうちX%を受注すると仮定してX億円の利益を見込む」というロジックを組み立てるだけでよい。現状より人員を増やす計画であれば、その分労務費などを費用計上しておくと、精度を高めることができる。

 

➃ コストシナジー

 生産セクションや、スケールメリットによるコスト削減効果も併せて試算しておきたい。こちらは、連結することで共通化される拠点や共通部署、租税などのコスト削減分や、買い手側がコストマネジメントに注力する場合、現時点で見積もる削減額を販管費から差し引く。

 とはいえ、やや専門的な内容になるため、この時点ではあまり検討されないことも多い。

■連結の財務モデルを作る上での注意点

f:id:consultant-biz:20200704161934j:plain

連結財務モデルの作成タイミング

 P/Lに反映されるであろうシナジーの精査が進んだら、財務モデルを作る。

 財務モデルは、大凡DDが始まる前(意向表明書を提示するタイミングより前)に双方の現時点でのプロジェクションを基にまずはP/Lだけでも作っておくとよい。実際の交渉が始まるまでに、対象会社を連結する際のインパクトをあらかたつかんでおく必要があるためだ。この時点では、双方の決算月に注意して、単純な合算だけでもしておくだけでも参考になる。

 DDが進むと、会計DDから対象会社の財務情報の精査がある程度終わっている段階なので、その精査済みの財務諸表を基に、最終的な財務モデルを構築することになる。その際、注意すべき点は以下の通り。

 ➀のれん(B/S)とのれん償却(P/L)

 企業買収を検討する上で重要になってくるのが、のれんである。のれんは、買収時点で認識した超過収益力である。日本会計基準の場合は、年数を重ねるごとにその価値は劣化するため、20年以内で償却(減価償却と同様の考え方)していくことを基本としている。この償却期間は、ビジネスモデルのサイクルによって長さが変わるものの、買収金額に基づくP/Lインパクトがあるため、投資判断の重要なポイントである。

 一方、国際会計基準の場合は、のれんの償却は実施せず、その価値が著しく下落した際に、減損処理を行うこととされている。そのため、のれんの価値を評価するような手続きを毎年実施する(=「減損テスト」)必要がある。

 

 ➁財務モデルのシナリオ設定

 Excelを用いて財務諸表をつくる場合、方法の財務諸表(特にP/L)は、個別シートで単体の試算をするところから始める。というのも、DDの結果、事業のプロジェクションの先行きが不透明であったり、今後の景気動向によって左右されたりすることが明らかになっている場合、単体のシートでシナリオを分けて計算する必要があるためである。

 自社の財務資料と、対象会社の財務資料を基に、事業部・サービス別に売上・利益を分解、Normal/Upside/Downsideなど、複数のシナリオを設定し、各計上項目にパラメータを設定していく。Normalの財務諸表(精査済みのフィージビリティの高いもの)を基準とし、Upside/Downsideには係数をかけたり、シナジー創出分の切り貼りをしたりして、3パターン見られる形にするとよい。

 

 これら注意点をおさえた上でどう落とし込めばいいか、具体的な作成方法については、次回提示したい。