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財務モデルを作成する上での精査事項~ビジネスデューデリジェンスの論点 Part6~

 

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 本日は、買収を検討している対象会社のビジネスデューデリジェンス(BDD)の結果を反映した財務モデルの作成方法の一例をご紹介したい。前回は、それらのアプローチの方法を深堀したが、今回はより実践的に、まずは単体の財務モデルの作り込みに必要な要素を提示していきたい。

 ディールが始まってから、BDDの論点に従って幾度かQAやマネジメントインタビューを重ねて対象会社の理解が深まってきた段階で、対象会社の単体の財務モデルを作成する。基本的には、中間報告の段階で対象会社が属する市場環境の分析結果、内部の部門別業績の分析結果を提示するが、買収後数ヵ年の投資戦略イメージを盛り込みながら、財務モデルを提示する。ここで作成した財務モデルは、株式価値および買収金額のバリュエーションの前提となり、投資判断に直結することを留意いただきたい。

 【財務モデル作成に必要なもの】

 作成にあたっては、まず管理会計レベルの部門別P/Lが必要になる。対象会社の展開するサービス・事業別に損益をまとめたものである。これは、BDDが開始された時点で、真っ先に開示請求をしておくべき資料である。

 部門別の収益性がわからないと、どのサービス・どの事業が堅調に推移しているかわからないし、その精査もできない。これはビジネスの見通しを測る上で非常に重要な観点であり、もっと言うと平常収益性の精査ができなければ、対象会社のそもそものポテンシャルが分からず、価格をつけることもできない。ましてやプロジェクションを引くことなどできない。

 例えば、下記のような資料が出てきて、分析するとする。

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部門別収益の精査(1/2)

 直近期に向けて、利益率が向上、営業利益額は向上しているが、売上のトレンドとして、中間年の凹みが気になる。

 これをグラフに落としてみると、このトレンドがよくわかる。

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部門別収益の精査(2/2)

 対象会社全体の売上高は、年々堅調に推移しているものの、2019年に事業部Aの売上高に凹みがみられる。売上総利益(粗利)に目をやると、売上同様に事業部Aにおいて凹みがみられる。また、売上高が年々増収となっている一方、粗利額は大きく変わっていないため、粗利率が悪化していることがみてとれると思う。

 これらの検出事項は、➀過去トレンドから見る平常収益力の分析、➁プロジェクションの策定・事業別の収益存続性について検証する際の材料となる。

 いずれも、バリュエーションに大きく響く部分であるため、マネージャーインタビューやQAを通して、その要因を精査するとともに、最終的な対象会社な財務モデルを策定する上で、定量化しなくてはならない。

【平常収益力の精査と特殊要因のノーマライズ】

 質問としては、「2019年に事業部Aにおいて売上・粗利ともに減少している(減収減益)となっているが、どういった要因が考えられるだろうか」というところからぶつけてみたい。

 企業によってその要因はまちまちであるだろうが、「間口拡大のため、新規に〇〇案件を獲得したが、今後の太客となるため、最初は人員・コストをかけて対応。結果収益性が低かった」とか、「そもそも2018年の売上は、平時ではない〇〇の要因による特需の影響が大きい」といった回答が得られるかもしれない。

 前者の回答であれば、当該案件の収益性やそもそもの契約内容の深堀が必要であるし、後者の場合は、2018年の事業部Aの売上・粗利額から特需部分の金額を精査し、ノーマライズする必要がある。結果、2019年の凹みは、2018年のノーマライズにより解消し、それにより、3か年で売上は継続成長しているという結論に達する。

 また、すべての事業部において粗利率が減少していることも精査する必要がある。売上高が上がる一方で、どんどん利益率が下がっているということなので、事業がスケールしていかない。コスト削減の余地があるか、著しく不利な取引関係はないか、オーナーによる利益圧縮なのか…買収後に解消する部分がある場合(役員に紐づく費用、買収後スケールメリットによるコスト削減が見込まれるもの、買収後は支払わなくてよくなる費目など)は、それらを足し戻す必要がある。

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特殊要因のノーマライズ

 こうした部門別のP/L精査は、BDDにおける基本的かつ核心的な部分であるため、はじめにこの分析をし、可視化した上で当該箇所を指し示しながら、インタビューすることが望ましい。

【プロジェクションの考え方】

 直近期までの収益精査が終わったら、今度は進行期以降の推移を考えていかなければならない。会社によっては3~5ヵ年の予算を組んでいる場合もあるが、この精度については精査が必要。将来にわたっての収益トレンドの予測は、一般的なバリュエーション手法であるDCF法を用いた算出に影響が出るため、フィージビリティの高い推移予測が肝要である。

 併せて、買収後の投資戦略についても考えてみたい。買収後の所謂100日プランの策定を鑑み、投資が必要なもの、各種一時的なコストの圧迫を鑑みて、それらを単体の財務モデルに反映する必要がある。

 考え方としては、➀進行期以降予算のフィージビリティ、➁キャパシティ、➂クロスセルをはじめとしたシナジーの算出、➃どのような投資戦略(任意の年度までにいくら利益を積み上げるか)を立てるか。これらのロジックを盛り込むことになる。

 ➀進行期以降予算のフィージビリティ

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予実分析

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売上増減分析


  予算の精査については、まず顧客別にどれだけ積み上げが可能か分解していく必要がある。これらは、対象会社の直近期までの予実分析をすることで、その大まかな精度を測るとともに、「どれだけ継続案件の積み上げができるか」を精査する上での顧客別受注資料を基にした売上増減分析(これは前述の部門別損益分析にも有効)から読み解いていく。

 これらのパラメータを基に、予算のX%は確度が高いとして積み上げることができる(併せて顧客別・案件別ボ分析は、そのボリュームゾーンが大きいところを優先して精査することが必要)。

 ➁キャパシティ

 現状の人員数で最大どれだけ稼ぐことができるかという観点の分析である。一人あたりの売上高、もしくは受注金額・PJ日数による工数管理で人工あたりの売上高・収益をパラメータとして持つ必要がある

 ➂シナジー

 前回までに論述した部分である。M&A最大のシナジーであるクロスセルは、当然最もP/Lインパクトが大きい。そのため、双方の顧客を洗い出しどれだけアプローチできるか、受注率はどれくらいか、それぞれの平均単価と併せてパラメータ化が必要である。

 ➃投資戦略

 基本的に増収増益を目指しフィージビリティの高いプロジェクションをつくるが、どのような成長戦略を描くかは、クライアントのさじ加減によるところもあるし、対象会社に何が必要かによって大きく異なる。

 人員増強をしなければ売上拡大が見込めないのであれば、「X年でX人増やす」という投資戦略を描き、それに係る採用費、労務費、各種関連コストの増加ロジックと、➁に述べたキャパシティに従って、売上・収益の増加ロジックを組み立てる。(一種のシュミレーションを構築し、あとは鉛筆なめなめの数字を組み替えていくことになる)

 基本はすべて、「一人採用すると各費目はどう動くか」、を設定することになるが、当然採用したばかりの人材では、すぐに収益を上げることは考えにくいため、初年度はコストストレスがかかるということになるかもしれない。採用した人材が何年で収益を生み出す自走人材になるか、マネージャーインタビューを通して、肌感覚でもパラメータとしてもっておきたいところである。

 上記大きな4観点に基づいて、プロジェクションを引く。

 何度も言うように、このプロジェクションを含めて、対象会社の株式価値のバリュエーションに関連づくため、インタビューやQAでそれぞれを分解していくのが肝要である。

 次回は、これらのパラメータをどう落とし込んでいくか、バリュエーションの算出方法とともに提示していこうと思う。